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コンビニの24時間営業は”実験の名残り”だった。1975年の3店舗実験から見えるその限界

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コンビニの24時間営業は「実験の成功」から広まった。その名残りが今、限界を迎えている

「セブン‐イレブン」という店名の由来は、朝7時から夜11時まで営業していたことだ。これを知っている人は多い。では、「なぜ24時間になったのか」を説明できる人はどれくらいいるだろうか。

実は、24時間営業は最初から設計されたビジネスモデルではない。アメリカの成功データをもとに、立地の異なる3店舗で同時に試みられた「実験」が起点だ。その実験が成功し、業界標準として横展開された。つまり、今私たちが「当たり前」と思っているコンビニの24時間営業は、50年前の実験結果の積み重ねにすぎない。

そして今、大手3社の24時間営業店舗の割合は90%前後にまで低下している(矢野経済研究所調べ、2025年4月時点)。実験から生まれた常識が、今まさに問い直されている。


出発点は「7時〜23時」。名前の通りのコンビニだった

1974年(昭和49年)5月、東京都江東区豊洲に「セブン‐イレブン第1号店(豊洲店)」がオープンした。日本初の本格的なフランチャイズ方式を採用したコンビニエンスストアだ。

当時、日本の小売業界で17位に低迷していたイトーヨーカ堂が、アメリカのサウスランド社と業務提携してコンビニを日本に導入した。営業時間は店名の由来通り「午前7時〜午後11時まで」の16時間。深夜に店を開けるという発想自体、まだ実験段階にも達していなかった。

当時のコンビニが提供していた利便性は、主に以下の3点だった。

  • 距離の便利さ:自宅からすぐ近く(半径500m程度)にある
  • 時間の便利さ:他の小売店が閉まっている夜11時まで開いている
  • 品揃えの便利さ:パン、菓子、飲料、日用雑貨、タバコ、酒など約1,800〜2,800種類

「夜11時まで開いているだけで十分に便利」という時代だった。


24時間営業の正体:アメリカのデータをもとにした3店舗の実験

日本初の24時間営業が始まったのは、豊洲店のオープンから約1年後のことだ。

1975年(昭和50年)6月、セブン‐イレブンは立地特性の異なる3店舗を選び、同時に実験的な24時間営業を導入した。

  • 虎丸店(福島県郡山市):地方都市
  • 東陽店(東京都江東区):オフィス・住宅混在エリア
  • 相生店(神奈川県相模原市):郊外住宅地

この実験の背景にあったのは、発祥国のアメリカで「24時間営業にすると売り上げが向上する」というデータが出ていたことだ。「日本でも同じ効果が得られるか」を立地条件の異なる3地区で同時に検証した、まさに実証実験だった。

結果、3店舗すべてで売り上げが伸びるという顕著な成果が得られた。 当時の主な客層は残業帰りのサラリーマン、深夜まで活動する学生、深夜勤務のサービス業従事者などだったとされている。

この成功を受け、24時間営業はコンビニの強力な武器として認識され、ローソン(1977年)、ファミリーマート(1978年)と主要チェーンへ次々と広まっていった。「あいててよかった」というキャッチフレーズとともに、24時間営業は業界の標準モデルとして定着した。

重要なポイント: 24時間営業は「コンビニとはそういうもの」として最初から設計されたわけではない。3店舗の実験が成功し、そのまま業界全体に横展開された結果だ。言い換えれば、24時間営業が「当たり前」になったのは、最初の実験がたまたまうまくいったからにすぎない。


実験の成功が生んだ「当たり前」が、今なぜ崩れているのか

「実験がうまくいったから広めた」という経緯で定着した24時間営業は、50年近くにわたって業界標準として機能してきた。しかし、その前提を支えていた条件が一つひとつ崩れ始めている。

① 2019年、社会問題化した「東大阪の騒動」

24時間営業の見直しが加速するきっかけとなったのは、2019年2月に起きた「セブン‐イレブン東大阪南上小阪店」でのオーナーの行動だ。

このオーナーは共に店を切り盛りしていた妻を亡くし、深刻な人手不足も重なって過酷な長時間労働を強いられていた。本部の許可なく深夜営業を取りやめたところ、本部側が契約違反を理由に1,700万円もの違約金を請求したことが報じられた。「24時間営業の強制は過酷すぎる」として加盟店オーナーの労働環境が大きな社会問題に発展した。

② 深夜スタッフが集まらない・人件費が上がり続ける

コンビニの現場を直撃しているのが、日本全体の労働力不足と最低賃金の上昇だ。

  • 深夜時間帯はアルバイト募集を出しても応募が集まりにくく、オーナーやその家族が夜通し店に立つことで営業を維持しているケースも少なくないとされている
  • 最低賃金の全国的な上昇により、客数の少ない深夜帯の人件費コストが増大している
  • 宅配便受付、決済代行、チケット発券など業務の多様化が進み、スタッフ確保の難しさに拍車をかけているという指摘もある

③ 「コンビニ会計」の構造:本部と加盟店で利害が一致しない

コンビニ特有の「粗利分配方式」(コンビニ会計)も、この問題の根底にある重要な背景だ。

「粗利分配方式」とは:
加盟店が本部に支払うロイヤリティ(≒使用料)を、売上総利益(粗利)の一定割合で算出する仕組み。「儲かった分のうち何パーセントかを本部に納める」方式で、主要コンビニチェーンのほぼすべてが採用している。

この仕組みには加盟店にとって不利に働く側面があるとされている。一般的な会計では、売れ残って廃棄した商品のコストは「原価」に含まれる。しかしコンビニ会計では廃棄分が原価に含まれないため、「粗利」がかさ上げされ、本部へのロイヤリティ支払い額が増える仕組みになっているという指摘がある。

結果として、深夜の売上がわずかであっても本部にはロイヤリティが入る一方、加盟店にとっては売上が人件費・電気代に届かない「深夜の不採算」が発生しやすい構造があるとされている。

また、ローソンの契約条件の一例として公開されている情報によると、24時間営業に満たない店舗にはロイヤリティ率に3%が加算される仕組みが存在することが確認されており、時短営業を選ぶことが経済的なペナルティにもなり得る構造だという指摘がある。

④ 公正取引委員会が「優越的地位の濫用」の可能性を指摘

2020年、公正取引委員会は、コンビニ本部が時短営業を希望する加盟店との協議を一方的に拒み不利益を与えた場合、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に当たる恐れがあるとの見解を示した。これを受け、各本部は加盟店との協議を進め、時短実験を本格化させる方向に転換を余儀なくされた。

「優越的地位の濫用」とは:
取引上の力関係で優位にある側(この場合はコンビニ本部)が、その立場を利用して相手(加盟店)に不当な不利益を与えること。独占禁止法で禁じられている行為。


時短実験の結果:収益も割れ、オーナーの評価も分かれた

ファミリーマートなどが実施した時短実験では、以下のような結果が報告されている。

  • 毎日時短を実施した店舗では平均日商が約7%減少した一方、人件費も削減された
  • 最終的な営業利益については、増えた店舗(44%)と減った店舗(56%) に分かれた
  • オーナーからは「気持ちにゆとりができた」「深夜の人手不足の不安がなくなった」という評価がある一方、早朝の陳列作業の負担増や日中スタッフの確保という新たな課題も浮上した

今、コンビニの24時間営業はどうなっているのか

矢野経済研究所の調査(2025年4月時点)によると、セブン‐イレブン・ファミリーマート・ローソンの大手3社ともに、24時間営業店舗の割合は90%前後にまで下がっている。かつては「24時間営業だからこそコンビニ」と言われていたが、その常識は変わりつつある。

現在は以下のような方向性で対応が進んでいる。

  • 時短実験の拡大:数百〜千店舗規模での時短導入・実証実験が進行中
  • 省人化技術の導入:セルフレジの全店展開、AIによる自動発注システム、深夜の無人営業実験
  • 施設内コンビニの増加:病院、介護施設、大学、オフィス、工場内の「売店」がコンビニに置き換わる形での非24時間型の出店が増加しており、今後5年でさらに24時間比率が低下するとも指摘されている

まとめ:実験から生まれた常識は、また実験によって更新されようとしている

ポイント内容
日本のコンビニ1号店(1974年)朝7時〜夜11時の16時間営業でスタート
24時間営業の始まり(1975年)アメリカの成功データをもとにした3店舗の実験導入
業界全体への拡大実験成功後、ローソン(1977年)・ファミマ(1978年)と普及
現在の24時間営業比率大手3社いずれも90%前後に低下(2025年4月時点)
見直しの主な背景労働力不足・人件費高騰・本部と加盟店の利害不一致・公正取引委員会の指摘

24時間営業は、コンビニという業態の本質として最初から設計されたわけではない。1975年の3店舗実験が成功し、その結果を業界全体に横展開した運用モデルだ。

そう考えると、今起きていることは「コンビニらしさの崩壊」ではなく、「実験によって生まれた常識が、新たな現実に合わせてまた更新されようとしている」と見るほうが正確かもしれない。時短実験が各社で進み、24時間比率がじわじわ下がっていく現在の状況は、1975年の実験と構造的には同じことの繰り返しとも言えるからだ。



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