世界の変な仕事図鑑|「なぜそれが職業に?」と思わず唸る10選
世界には、特定の社会的ニーズや文化的背景から生まれた、ごく少数の人しか知らない職業が数多く存在する。毒蛇から手で毒を絞り出す人、匂いで病気を嗅ぎ分ける人、行列に代わりに並ぶだけで高収入を得る人——いずれも実在する仕事だ。一見すると奇妙に映るこれらの職業は、それぞれの社会が抱える課題や需要を解決するために生まれたとされている。本記事では、世界各地の「変な職業」を4つのカテゴリーに分けて紹介する。
医療・科学系:命がかかった専門職
スネークミルカー(蛇の毒搾り職人)
主な活動地域: アメリカ・オーストラリアほか
毒蛇の頭を固定し、牙をガラス容器の縁に当てて毒液を採取する——これが「スネークミルカー」と呼ばれる職業の仕事内容だ。
- 用途: 採取された毒は、抗毒素(蛇毒の解毒薬)の製造に使われるほか、がん研究・神経科学・心臓病・血栓の治療薬開発にも用いられているとされている
- 危険性: 当然ながら咬傷リスクが常に伴う、高リスク職種
- 役割: 医療用バイオ資源の供給チェーンの「最上流」に位置する専門職と位置づけられている
薬の原材料が、人の手でこうして集められているという事実は、あまり一般に知られていない。
スーパースメラー(超嗅覚保持者)
主な活動地域: イギリス・中国ほか
超人的な嗅覚を持つ人間が、特定の疾患を持つ患者が放つ体臭の違いを嗅ぎ分ける仕事だ。
- 対象疾患: パーキンソン病などの神経変性疾患(※神経が少しずつ壊れていく病気の総称)は、発症初期に特有の匂いを放つとされている
- 仕組み: 病気の種類によって、体内で生成される揮発性有機化合物(※体から漂う微細な化学物質)が異なるため、高感度な嗅覚で識別できる可能性があるという
- 医療現場での活用: 通常の検査では検知が難しい段階での早期発見に役立てられているとされる
「匂いで病気がわかる」というのは、現時点では研究・医療補助の段階にある。
プロフェッショナルスリーパー(職業睡眠者)
主な活動地域: フィンランド・アメリカほか
「寝ること」が仕事になる職業。大きく2種類の目的で活用されているとされる。
- 睡眠研究用: ホテルや医療施設が、マットレスや睡眠環境の品質評価のために雇用するケース
- NASA用: アメリカのNASAは数年に一度、「2ヶ月間ひたすら横になり続ける」被験者を公募しており、2019年には報酬約200万円の求人が話題となった。食事・排泄・シャワーもすべてベッド上で行う、宇宙での無重力状態を模した実験とされている
代行・サービス系:「面倒」を商売にする仕事
プロフェッショナル・ラインスタンダー(並び屋)
主な活動地域: アメリカ(ニューヨーク・ワシントンD.C.)
依頼主の代わりに行列に並ぶだけで報酬を得る職業。現代の大都市で成立したニッチなサービスだ。
- ニューヨーク(Same Ole Line Dudes): 時給25ドル(約3,800円)が相場とされる
- ワシントンD.C.(Washington Express): 時給60ドル(約9,000円)・最低3時間からという報酬体系が報告されている
- 需要の内容: 高級ブランドの限定品セール・コンサートチケット・議会や最高裁の傍聴席確保など
- 歴史との比較: 共産主義時代のポーランドでは、物資不足の中で生存のために列に並ぶ代行業「Stacz kolejkowy」が存在したとされる。現代アメリカの並び屋は、「時間の価値が高い富裕層が時間を金で買う」形に変質しているとの指摘がある
人間ベッドウォーマー
主な活動地域: ロシアなど寒冷地
依頼主が就寝する前に、代わりにベッドに入って体温で寝具を温めておく仕事。
- 「体温で布団を温める」という物理的な作業を行うサービスで、電気毛布では代替できない「人の温もり」への需要とも説明されている
- 寒冷地における文化的・生活的なニーズから生まれたとされる
靴履き慣らし職人
主な活動地域: イタリア
購入したばかりの新品の革靴を、依頼主の代わりに履いて歩き、革を柔らかくする職業とされる。
- 新品の硬い革靴は、履き始めに足が痛くなりやすいという問題がある
- これを代行することで、依頼主がすぐに快適に履けるようにするのが目的とされる
レンタル人間(日本)
主な活動地域: 日本
友人・恋人・家族・葬儀の参列者など、「必要な役割を担う人間」を時間単位で貸し出すサービス。
- 都市部における匿名化した社会構造の中で、一時的な人間関係を市場から調達するサービスとして定着しているとされる
- 類似サービスは日本から発祥した後、世界各地に広がったとも報告されている
- 謝罪代行サービスも同系統に分類され、対面謝罪で約26,000円、メール・電話対応で約10,000円が相場の一例として報告されている
自然・信仰系:土地と文化が生んだ職業
レインストッパー(雨止め師)
主な活動地域: インドネシア
「Pawang Hujan(パワン・フジャン)」とも呼ばれる職業で、コーランの読唱や祈祷を通じて、イベント当日に雨が降らないよう神に晴天を祈る役割を担う。
- インドネシアのテレビ番組や日本の「世界くらべてみたら」などの番組でも取り上げられている
- 大規模な野外イベントでの「雨天による損失リスク」に対する、儀式的リスク管理として需要があるとされる
- 「迷信か実用か」という議論は続いているが、失敗コストが高いイベントでは正式に雇用されるケースがあると伝えられている
アイランドケアテイカー(島の管理人)
主な活動地域: オーストラリア・グレートバリアリーフ(ハミルトン島)
2009年にオーストラリアのクイーンズランド州が公募した職業で、「世界最高の仕事」として世界中で話題となった。
- 業務内容: ハミルトン島に滞在しながら観光地を訪問し、ブログやSNSで発信する
- 経緯: 観光プロモーションの一環として公募され、世界中から応募が殺到したとされる
- 「働きながらリゾートに住む」という条件が、メディアの注目を集めた
海底郵便局員
主な活動地域: バヌアツ(ハイダウェイ島)
2003年に設置された、世界唯一の有人海底郵便局で働くスタッフ。
- 水深約3メートルの海底に郵便局が設置されており、4名の局員が空気ボンベで呼吸しながら交代で勤務しているとされる
- 業務内容は耐水加工された葉書の販売・消印押印など。貯金等の通常業務は行っていない
- 空気ボンベの容量制限から、1日2時間程度しか営業できないとされる
- 観光名所としての側面が強く、ダイビングをしながら手紙を出せるという体験が観光客に提供されている
技術・技能系:資格が必要なニッチな専門職
ひよこ鑑定士(初生雛鑑別師)
主な活動地域: 日本を中心に世界各国
孵化したばかりのひよこの性別(オス・メス)を瞬時に見極める専門職。正式名称は「初生雛鑑別師」。
- 技術の難易度: 判別率99.5%以上が求められるとされる高度な技術職
- 養成過程: 日本の「初生雛鑑別師養成所」で5ヶ月の訓練を受けた後、公益社団法人畜産技術協会の試験に合格する必要がある
- 需要の所在: 日本国内よりヨーロッパでの需要が高いとされており、海外への派遣事例もある
- 報酬: イギリスでは年収最大650万円相当に達するケースも報告されている
まとめ:「変な仕事」が生まれる構造
これらの職業に共通するのは、「特定のニーズが十分な規模で存在するとき、それを解決する仕事が生まれる」という構造だ。
- 都市の人口が大きければ大きいほど、ニッチな職業が成立しやすくなるとされている(経済学者アダム・スミスの「分業は市場の規模によって制限される」という原則が背景にある)
- 一方で、機械化や技術革新によって「目覚まし屋(ノッカー・アップ)」や「ボウリングのピンセッター」のような職業は歴史から消えてきた
- 「変な仕事」の多くは、機械では代替しにくい「人間の体」「文化的な信頼」「対人関係」を使う仕事であることが多い
今後、テクノロジーの進歩でどの職業が残り、どの職業が消えるのか——「世界の変な仕事」を見ていると、労働の本質について改めて考えさせられる。
参考資料
- ソースガイド「世界の知られざる奇想天外な職業録」
- 「世界の特殊職業と労働市場の空間的動向に関する調査レポート」(Atalay et al., 2024参照)
- BuzzFeed Japan「本当に稼げる?世界のかなり珍しい仕事18選」
- 雑学ミステリー「本当に稼げる?世界のかなり珍しい仕事18選」
- 就活ハンドブック「珍しい職業とは?具体的な34の職業を紹介!」
筆者のコメント

スネークミルカー 毒蛇から手で毒を絞る仕事が成立しているという事実、まず受け入れるまでに少し時間がかかりました。ただ、その毒が心臓病の治療薬になっているとなると、急に話のスケールが変わってきます。噛まれるリスクを取りながら医療に貢献しているわけで、「危険手当」という言葉の意味を根本から問い直させてくれる職業だと思います。
スーパースメラー 匂いで病気を嗅ぎ分けるという能力、普通に生きていたら「鼻が良すぎる人」で終わるところが、医療現場でキャリアになっているのが興味深いです。才能の活かし方として、かなり予想外なルートだと思います。
プロフェッショナルスリーパー NASAが「2ヶ月寝ていてください」という求人を出しているというのは、なかなか衝撃的な情報でした。食事も排泄もベッドの上、とのことなので、途中から「仕事」なのか「修行」なのかわからなくなってきます。報酬は約200万円とのことで、計算すると悪くはないのですが、応募するかどうかは慎重に考えたいところです。
並び屋(プロフェッショナル・ラインスタンダー) 「並ぶだけ」で時給60ドルが発生している、というのがまずポイントです。ワシントンD.C.では議会の傍聴席確保の代行まで行われているとのことで、民主主義の現場で「列の順番」がそこまでビジネスになっているというのは、なんとも言いにくい感慨があります。
人間ベッドウォーマー 電気毛布では代替できない、という需要の説明は理解できます。ただ、職業として成立するほどの需要がロシアに存在しているという点については、もう少し情報が欲しいところではあります。寒い国だからこそ、という話だとは思いますが。
靴履き慣らし職人 他人の新品の革靴を代わりに履いて歩く、という仕事がイタリアで成立しているということ自体は理解できます。依頼主の足のサイズと自分の足のサイズが合わない場合どうするのか、という点が若干気になりますが、そこはプロが対応しているのだと思います。
レンタル人間(日本) 葬儀の参列者まで「レンタル」できるというサービスが日本発というのは、なんとなく納得感があります。「人間関係の外部化」と表現されることもあるようですが、必要なときに必要な役割を調達できる、という割り切り方は、ある種の合理性とも言えます。複雑な気持ちになるかどうかは、利用する側の事情によるかと思います。
レインストッパー コーランを読唱して雨を止める、という職業がインドネシアで正式に雇用されているというのは、宗教と実用が混在した例として興味深いです。「失敗したらどうなるのか」という点は調べても出てこなかったのですが、野外イベントの主催者がお金を払って依頼している以上、一定の信頼関係は成立しているのだと思います。
アイランドケアテイカー 「世界最高の仕事」として2009年に公募されたこの職業、グレートバリアリーフの島に住みながらブログを書くだけ、という条件で世界中から応募が殺到したとのことです。「最高」かどうかは人によると思いますが、話題になること自体はよくわかります。観光プロモーションとして機能した時点で、もう目的は達成されていた気もします。
海底郵便局員 水深3メートルの海底で、空気ボンベをつけながら葉書に消印を押す——という業務を1日2時間だけ行う職員が4人いる、という事実をそのまま受け止めるのに少し時間がかかりました。観光名所としての側面が強いとのことで、実用よりも「体験」に価値があるサービスなのだと理解しています。郵便物がちゃんと届くのかどうかは、行ってみないとわからないかもしれません。
ひよこ鑑定士 判別率99.5%以上、というのがまずすごいです。5ヶ月の専門訓練と資格試験を経て取得できる技術で、しかもヨーロッパの方が国内より需要が高いというのは、日本の資格が海外でそのまま通用している数少ない例のひとつかもしれません。イギリスでの年収が最大650万円というのも、職業としての評価がはっきり出ている数字だと思います。


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