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ナフサってなに?ホルムズ封鎖が引き起こす「日本のプラスチック危機」をわかりやすく解説

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ホルムズ海峡封鎖が直撃する「ナフサ不足」——日本の製造業・医療・物流への連鎖的影響

2026年2月末のイラン攻撃に端を発するホルムズ海峡の事実上の封鎖は、日本のエネルギー供給にとどまらず、石油化学産業の根幹原料「ナフサ」の供給危機を引き起こしている。すでに国内主要メーカーがエチレンの減産に踏み切っており、物流・医療・日用品など幅広い分野への波及が懸念されている。


ナフサとは何か

ナフサとは、原油を精製する際に得られる炭化水素の混合物で、石油化学産業の基礎原料となる物質だ。

ナフサを高温の分解炉で熱分解すると、以下の基礎化学品が生成される。

  • エチレン・プロピレン:プラスチック全般の原料
  • ブタジエン:タイヤや合成ゴムの原料
  • ベンゼン・キシレン:医薬品・農薬・PETボトル・ポリエステル繊維の原料

つまりナフサは「燃料」ではなく「産業の原料」であり、プラスチック・合成繊維・合成ゴム・塗料・医薬品など、現代産業のほぼあらゆる素材の出発点となっている。


なぜホルムズ海峡封鎖がナフサ不足につながるのか

日本のナフサ調達構造

日本のナフサ調達が特に脆弱な理由は、その構造的な「一本足打法」にある。

  • 日本はエチレン原料の95%をナフサに依存している(米国はシェール由来エタン、欧州はLPGを一定割合使用するのと対照的)
  • 国内製油所で生産されるナフサは国内需要の約3割にすぎず、残り約7割は輸入
  • 輸入ナフサのうち約74%(2024年時点)が中東産であり、UAE・クウェート・カタールの3か国だけで輸入量の67%を占める
  • 中東産ナフサのほぼ全量がホルムズ海峡を通過する

この構造のため、ホルムズ海峡の封鎖は事実上、日本の石化原料の3分の2近くを遮断することを意味するという指摘がある。

なお、中東依存度はもともと53%(2020年)だったが、2022年のロシア制裁以降ロシア産が排除されたことなどから、2024年には74%へと急上昇していたとされる。

石油備蓄との違い

原油や石油製品には国家・民間合わせて約8か月分の備蓄があるとされる。しかし、ナフサについては備蓄構造が異なる。

  • 国内のナフサ在庫は約20日分程度とみられている
  • 製油所で国産ナフサを生産することは可能だが、それは備蓄原油を使う場合に限られる
  • 政府は「ナフサの国内需要の約4か月分を確保可能」と説明しているが、純粋なナフサ在庫20日分との乖離について、4か月という数字はあくまで構造的リスクが顕在化するまでの猶予期間(カウントダウン)に過ぎないという指摘もある

現時点の企業の動き(事実)

ホルムズ海峡封鎖を受け、国内石化各社は減産・停止対応に動いている。

  • 三菱ケミカル:3月6日から茨城事業所でエチレンの減産を開始。「原料枯渇による操業停止を避けるため」と説明
  • 三井化学:大阪の設備でエチレン減産に踏み切ったと報じられている
  • 出光興産:エチレン生産設備の停止可能性を取引先に通知
  • 住友化学グループ(シンガポール拠点):エチレンおよびアクリル樹脂原料でフォースマジュール(不可抗力による供給停止)を宣言

2026年3月16日時点で、国内12か所のエチレン生産設備のうち半数の6か所が稼働を縮小しているとも報じられている。

また、和歌山県内で卵パックなどのプラスチックシートを製造するRP東プラでは、原材料価格が約4割上昇したとされ、2〜3か月は在庫での生産が可能としながらも「生産ラインがストップするなどの影響が出てくる可能性」を示唆している(関西テレビ報道)。


波及する「ドミノ倒し」の連鎖

ナフサ不足は単なる素材の問題にとどまらず、川下産業へと連鎖的に波及するという構造がある。

物流への影響

  • 荷物の包装に使うフィルム・包装材の原料が不足
  • 物流を支える樹脂パレット(ポリプロピレン製)の供給不足が4月以降に本格化するという見通しがある
  • 石化プラントで減産が始まってから物流現場に届くまで約1〜2か月のリードタイムがあるとされる
  • タイヤの原料であるブタジエンが不足すれば、トラックの走行自体にも支障が出るという指摘がある
  • 「運ぶためのトラックはあっても、包む箱や載せるパレットがない」という事態が発生しうるとされている

日用品・食品への影響

  • ゼリーカップ・調味料チューブに使われる合成樹脂「エバール」の値上げがすでに発表されているという報道がある
  • ペットボトル(PET)・食品容器(ポリエチレン・ポリプロピレン製)の製造困難
  • ポリエステル繊維の原料(パラキシレン)の不足による衣料への影響
  • 水道管に使われる塩化ビニール樹脂の値上げ

原料高に加え「供給不安プレミアム」が上乗せされることで、製品価格が原料高を上回るスピードで上昇するリスクも指摘されている。

医療への影響

医療ガバナンス研究所の上昌広氏(医師)らは、ナフサ不足が医療現場を直撃するリスクを警告している。

  • マスク・手袋・注射器・カテーテル・点滴セットなどの使い捨て(ディスポーザブル)医療用品は石油化学製品
  • 国内に約34万5000人いる人工透析患者が使うダイアライザー・血液回路などは、いずれもナフサ由来のプラスチック製
  • 透析用プラスチックの在庫は「数週間分」しかないとされ、医療分野の中でも特に時間的猶予が少ないという指摘がある
  • 燃料不足による停電が起きた場合、透析機器の稼働が停止するリスクもある
  • 物流コストの上昇は、固定価格(診療報酬)で運営される病院経営を直撃するという懸念もある

背景:なぜここまで中東依存が高まったのか

  • 1973年の石油ショック以降、日本は輸入先多様化を目指してきた
  • しかし2022年のロシアのウクライナ侵攻後、ロシア産原油・ナフサの輸入が事実上停止
  • 中国・東南アジアでの自国消費が増加し、日本にとっての代替調達先が縮小
  • 結果として、原油の中東依存度は2024年度に**約95.9%**という過去最高水準に達していた

争点・論点

政府の「4か月分確保可能」説明をめぐる評価

政府(赤沢経済産業相)は、米国・南米からの輸入と国内精製分を合わせれば「国内需要の約4か月分を確保可能」と説明している。

  • 楽観論の根拠:一部タンカーはトランスポンダーを切った状態でホルムズ海峡を通過しており、全面遮断には至っていない面もあるという報道がある
  • 懸念論の根拠:ナフサ在庫は実質20日分程度とされ、「4か月」はあくまで構造的リスクが顕在化するまでの猶予という見方もある。中東以外からの代替調達は、海運保険料の急騰などにより輸送コストが極めて高い水準にあるという指摘もある

ナフサ「一本足打法」からの脱却は可能か

  • 短期的課題:インド・アフリカ・欧州などからの代替調達が一部進んでいるとも報じられているが、5年前と比べて選択肢は大幅に限られているという指摘がある
  • 中長期的課題:米国型(シェール由来エタン活用)や欧州型(LPG混用)への転換、再生プラスチックの活用、バイオエタノールの導入などが議論されているが、いずれも大規模な設備投資と政策支援が必要とされる

「効率重視」から「備え重視」への転換

石油化学産業に詳しい識者や業界からは、「Just in Time(ジャストインタイム=必要なときに必要な量だけ)」から「Just in Case(ジャスト・イン・ケース=万が一に備える)」への発想転換が求められるという声が上がっている。


今後の注目点

  • ホルムズ海峡の封鎖が長期化するか否か(イランの新たな最高指導者は3月12日の声明で封鎖継続を宣言したと報じられている)
  • 政府備蓄の石油化学向け放出がどの程度行われるか
  • 代替調達ルート(北米・南米・豪州など)の確保が現実的なコストで可能かどうか
  • 4月以降の物流現場・医療現場への影響の実態

主な参照元:東洋経済オンライン、物流ニュース「ロジ・トゥデイ」、オルタナ、関西テレビ「newsランナー」、ライブドアニュース、Spectee、創発戦略研究オープンラボ(ROLES)ほか


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