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ダムの貯水率はなぜ急に変わるのか?仕組みと季節運用を宇連ダム渇水事例から徹底解説

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宇連ダム「貯水率ゼロ」で底水くみ上げ開始――ダムの仕組みと水不足の深刻度を読み解く

宇連ダム「貯水率ゼロ」で底水くみ上げ開始――ダムの仕組みと水不足の深刻度を読み解く

WATER CRISIS / DAM STRUCTURE GUIDE
ダムの「仕組み」から読む水不足の深刻度
愛知県・宇連ダムで1968年の通水以来初となる「底水くみ上げ」が始まった。
この記事ではニュースの概要と、そもそもダムがどう機能しているかを解説する。

宇連ダムで何が起きているのか

2026年3月17日午後3時半、愛知県新城市にある宇連ダムの貯水率がゼロになったことが、管理する独立行政法人・水資源機構によって発表された。

[緊急事態]
1968年の豊川用水通水以来、初めての「底水くみ上げ緊急措置」が実施されている。最低水位以下の「底水」をポンプ10台で汲み上げるという、通常運用では想定されない対応だ。

宇連ダムの基本情報

所在地
愛知県新城市
豊川水系宇連川に設置。
人造湖の名称は「鳳来湖」。
有効貯水量
約2,842万トン
豊川用水の主要水源として
機能している。
供給エリア
東三河5市 + 静岡県湖西市
豊橋・豊川・蒲郡・新城・田原。農業・水道・工業用水を供給。
通水開始
1968年(昭和43年)
完成は1958年。2026年3月17日に通水以来初の底水活用。

渇水の経緯

今回の渇水は、2025年7月頃から続く記録的な少雨が主な原因とされている。昨年10月以降の降雨量が平年を大きく下回り続け、2026年1月には愛知県が渇水対策本部を設置した。

  • 2025年8月29日 : 豊川用水節水対策協議会が第1回節水対策を開始(農業・水道・工業 各5%削減)
  • 2026年2月10日 : 第5回節水対策(水道20%・農業40%・工業40%)へ強化
  • 2026年3月12日 : 貯水率が1%以下に低下
  • 2026年3月17日午前9時 : 第6回節水対策発動(水道25%・農業45%・工業45%)。東三河5市で「夜間ノータッチ運動(午後11時〜午前5時は使用自粛)」を開始
  • 2026年3月17日午前11時前 : 底水のくみ上げポンプ稼働開始
  • 2026年3月17日午後3時半 : 貯水率0%を公式発表

底水くみ上げの実態

  • 水中ポンプ10台・ホース・発電機を堤体から約50m下の地点に設置して対応
  • 1日最大約2万6,000トンをくみ上げ可能
  • 底水の残量は約28万トン(まとまった雨がなければ約10日分)と推計されている
  • 底水は砂や泥が混じりやすく、取水・活用には注意が必要とされている
[参考] 過去の貯水率0%の事例
宇連ダムで貯水率がゼロになったのは今回が3回目。1回目は1985年1月、2回目は2019年5月19日(観光客が殺到し混乱が生じた)。今回は近隣の大島ダムも貯水率が10%を下回っており、2019年とは異なる深刻な状況だとされている。
[補足] 1994年との比較
今回の水不足は、国内で深刻な被害をもたらした1994年の大渇水に匹敵する状態だという指摘がある。冬季にこれほどダム貯水量が低下するのは「異例の事態」と報じられている。

そもそも「貯水率0%」はどういう意味か

「貯水率0%」と聞くと「ダムが完全に空になった」と思いがちだが、実際の意味は少し異なる。

貯水率(%)= 貯水量 ÷ 利水容量 × 100 ※「利水容量」=水道・農業・工業などに使うために確保しているスペースの大きさ

つまり「貯水率0%」とは「水道や農業に使える水(利水容量分)を使い果たし、水位が最低水位まで下がった状態」を指す。ダムの底に完全に水がなくなったわけではない。

[用語解説] 最低水位と底水
ダムには「最低水位」が設定されており、通常の取水口はその水位を前提に設計されている。最低水位の下には「堆砂容量(将来の土砂堆積を想定したスペース)」があり、そこにも実際には水がたまっている。この水が「底水」や「貯留水」と呼ばれるもので、宇連ダムでは今回この底水をポンプで汲み上げることになった。

ダムの基本構造と「容量の分け方」

ダムの「器(総容量)」は一定だが、その中身は用途によって複数のゾーンに分けられている。

ダムの容量の分け方(洪水調節容量・利水容量・堆砂容量)
  • 洪水調節容量 : 大雨が来たときに一時的に水を受け止めるための「空きスペース」。洪水期は大きく確保される
  • 利水容量 : 水道・農業・工業・発電などに使う水を貯めるためのスペース。「貯水率」の計算に使われる分母
  • 堆砂容量 : 長年かけてたまる土砂を想定して確保されたスペース。通常は使用しないが、水が残っている場合は緊急時に活用される
  • 死水容量 : 底に沈積した沈殿物など、使用できない領域

日本の主要ダム(総貯水容量ランキング)

#ダム名所在地総貯水容量主な目的
1徳山ダム岐阜県(木曽川水系揖斐川)660,000千m³洪水調節・水道・工業・発電
2奥只見ダム新潟県(只見川)601,000千m³発電
3田子倉ダム福島県(只見川)494,000千m³発電
4夕張シューパロダム北海道(石狩川水系夕張川)427,000千m³洪水調節・農業・水道・発電
5御母衣ダム岐阜県(庄川)370,000千m³発電
6九頭竜ダム福井県(九頭竜川)353,000千m³洪水調節・発電
7佐久間ダム静岡県(天竜川)343,000千m³洪水調節・発電
8池原ダム奈良県(北山川)338,373千m³発電
9早明浦ダム高知県(吉野川)316,000千m³洪水調節・農業・水道・工業・発電
10玉川ダム秋田県(雄物川水系玉川)254,000千m³洪水調節・農業・水道・工業・発電
出典:国土交通省ダム便覧。目的略記:F=洪水調節 N=河川維持 A=かんがい W=上水道 I=工業用水 P=発電

なぜ「貯水率」は1日で急変するのか

ダムの運用で少し驚かれるポイントが、貯水率が「計算の分母の切り替え」によって1日で大幅に変化する仕組みだ。

夏と冬で変わる「器の大きさ」

ダムは季節によって容量の使い方(配分)を変えている。台風や集中豪雨のリスクが高い夏は「洪水調節」を優先し、水を受け止める空きスペースを大きく取る。一方で冬から春は大雨のリスクが下がるため、その空きスペースを「利水容量」に転換して水を蓄える。

ダム貯水容量配分の季節変化(夏と冬の比較)
夏(洪水期)は洪水調節容量を大きく確保し、利水容量(貯水率の分母)が縮小。
冬・春(非洪水期)は利水容量を最大化して水を蓄える。
[洪水期] 6月16日〜10月15日
利水容量を縮小
台風・集中豪雨に備えて「空きスペース(洪水調節容量)」を優先確保。利水容量は小さく設定され、貯水率の分母が小さくなる。
[非洪水期] 10月16日〜翌6月15日
利水容量を拡大
大雨リスクが低下するため、ダムいっぱいに水を蓄える。利水容量が大きくなるため、貯水率の分母も大きくなる。

高山ダムで見る「1日で貯水率が激変」する例

淀川水系の高山ダム(奈良県・京都府)は、この変化が特に大きいことで知られている。

洪水期の利水容量
1,380万m³
非洪水期の利水容量
4,920万m³
=
容量の変化
約3.5倍

たとえばダムに1,200万m³の水がたまっている場合、日付が「10月15日」から「10月16日」に変わった瞬間、貯水率の計算は次のように変わる。

10月15日(洪水期・最終日)
約87%
1,200万m³ ÷ 1,380万m³ × 100
10月16日(非洪水期・初日)
約24%
1,200万m³ ÷ 4,920万m³ × 100

貯まっている水の量は同じなのに、計算上の貯水率は一晩で「約87%→約24%」へと急落する。逆に6月16日(洪水期開始日)には分母が小さくなるため、同じ水量でも貯水率が跳ね上がることになる。

淀川水系の主要ダム・利水容量の比較

ダム名洪水期(夏)利水容量非洪水期(冬春)利水容量容量の差変化倍率
高山ダム1,380万m³4,920万m³3,540万m³約3.5倍
日吉ダム1,600万m³3,600万m³2,000万m³約2.2倍
一庫ダム1,330万m³2,680万m³1,350万m³約2.0倍
比奈知ダム940万m³1,530万m³590万m³約1.6倍
室生ダム815万m³1,330万m³515万m³約1.6倍
青蓮寺ダム1,540万m³1,910万m³370万m³約1.2倍
布目ダム1,000万m³1,270万m³270万m³約1.3倍
出典:水資源機構 淀川本部データ。室生ダム・布目ダムは洪水期内でさらに細分化される場合がある。

冬に水を多く貯める理由

「冬に利水容量を増やす」のは単純なルール変更ではなく、年間を通じた水資源管理の観点から合理性があるとされている。

  • 農業・水道・工業用水の安定供給 : 雨の少ない冬〜春先にかけて、水道や農業(田植えシーズンなど)への安定的な供給を確保するための備蓄
  • 渇水リスクの軽減 : 十分に貯めておくことで、貯水率が0%まで低下する事態を回避するための「保険」的な役割を果たす
  • 水力発電の安定化 : 水位を高く保つことで発電量が増え、国産クリーンエネルギーの供給安定に寄与する
  • 融雪水の確保(北日本・北陸) : 温暖化の影響で融雪時期が3月に前倒しされる傾向があり、春先に容量を確保して雪解け水を逃さず蓄えることが重要になっている

気候変動とダム運用への影響

近年の気候変動はダム運用の前提となる「流入量・流況パターン」に変化をもたらしているとされる。

洪水リスクの増大

  • 1時間に50mm以上の強雨の発生回数は、1976〜1985年の平均と比べ、2015〜2024年の直近10年間で約1.5倍に増加したとされている
  • 北海道・北陸・四国・九州などでは、近年のダムへの年間最大流入量が昭和末期比で1.2〜1.5倍に増大している傾向が確認されているという

渇水リスクと地域差

  • 東日本ではダムへの流入量が増加傾向にある一方、西日本(特に中国地方)では渇水流量が減少する傾向が指摘されている
  • 四国・九州では年間雨量が増加傾向にあるにもかかわらず、ダムへの年間流入量は横ばいか流出率が低下しているケースが報告されている。「激しい雨が増える一方で、雨が降らない期間も長くなる」という降雨の極端化が原因の可能性があるとされる

融雪パターンの変化

  • 全国的に3月の流入量が増大し、5月の流入量が減少する傾向が見られ、従来の運用スケジュールの見直しが必要になっているという指摘がある
  • 北海道・北陸では雪ではなく雨が増え、融雪の早期化によって冬から春の累計流入量が変化しているとされる
[背景] 既存ダムの高度化
新たなダム建設の適地が限られているため、既存ダムをより高度に運用する取り組みが進んでいるとされる。事前放流の実施や複数ダムの統合運用、再生可能エネルギーとしての水力発電の増強なども、こうした文脈のなかで議論されている。
[まとめ] 今回のポイント
  • 宇連ダムの貯水率0%は「ダムが空」を意味するのではなく、「利水目的の水が尽きた」状態を指す。2025年7月以降の記録的少雨が長期化し、1968年通水以来初の底水くみ上げが行われている
  • 「貯水率」は利水容量(分母)が季節ごとに変わる仕組みのため、1日で数値が大幅に変化することがある。ニュースの数字を見る際はこの点を念頭に置くと理解しやすい
  • ダムは「洪水を防ぐ」と「水を蓄える」という相反する2つの目的を、季節によって切り替えながら両立している
  • 気候変動による降雨パターンの変化(洪水の激甚化と渇水の深刻化の同時進行)は、既存のダム運用ルールの前提を変えつつあるという指摘がある
[参考・情報源]
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