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「炎上して、忘れて、また事故が起きる」富士山の遭難がなくならない本当の理由

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閉山中の富士山で外国人2人が400m滑落――繰り返される遭難事故と問われる規制の限界

2026年3月9日、冬季閉山中の富士山で外国籍の男女2人が数百メートルにわたって滑落し、1人が重体となる深刻な事故が発生した。3人は会社の同僚で、スキー目的で山頂まで登頂したという。この事故は、繰り返される閉山期の遭難問題を改めて浮き彫りにするとともに、「なぜ止められないのか」「救助費用は誰が負担するのか」という根深い議論に再び火をつけている。

■ 事故の概要――夜通しの捜索、宝永火口付近でようやく発見

3月9日午後2時54分ごろ、富士宮ルートの新7合目付近(標高約2,780m)を登山中だった外国籍の3人パーティーのうち、スウェーデン国籍の女性(23歳)とニュージーランド国籍の男性(51歳)が相次いで滑落。同行していた外国籍の女性が友人を通じて「2人が行方不明になった」と警察に通報した。

静岡県警の山岳遭難救助隊21人が出動し、暗闇の中での捜索を続けた末、同日午後10時40分ごろ、宝永第一火口付近で動けなくなっていた2人を発見。夜通しで担架搬送し、翌10日朝に県の防災ヘリで病院へ移送した。

スウェーデン国籍の女性は重体。発見時は呼びかけに応じていたものの、その後は会話できない状態になったとされる。ニュージーランド国籍の男性は全身の痛みを訴え骨折の疑いがある重傷で、自力歩行は不可能な状態だった。

警察によると、3人は会社の同僚で仕事のために短期滞在中の外国人だった。富士山を訪れた目的は「スキー登山のため」。3人は9日未明に徒歩で登頂し、山頂からスキーで下山を始めた。富士宮ルートの元祖7合目付近で岩場が現れスキーを続けられなくなり、板を外す際に23歳女性がバランスを崩して滑落。止めようとした51歳男性も転落した。通報時には「400メートル滑落した」との情報も伝えられた。東京タワーの高さ(333m)を超える距離を一気に落ちた計算になる。なお、3人は登山計画書を提出していなかったことが県警によって明らかになっている。

■ なぜ「閉山中」でも登れるのか――規制の2つの「穴」

富士登山オフィシャルサイトは開山期以外の登山について「大変危険であり、立ち入らないよう強く警告」している。3月の富士山は気温が氷点下10度以下になることも珍しくなく、風速が40メートルを超えることもある。山小屋・トイレ・救護所はすべて閉鎖され、携帯電話もほぼ通じない環境だ。

それでもなぜ、登山者は絶えないのか。現行の法規制には大きく2つの「穴」があるとされる。

第一に、道路法の限界だ。静岡県のホームページには「登山道は道路法により通行が禁止されており、違反者には6カ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金刑が科される可能性がある」と記載されている(富士宮市長談)。しかし、道路法が適用されるのはあくまで「登山道」という県道部分に限られる。登山道以外のルートから入山した場合、同法での直接的な規制は難しいのが現状だ。

第二に、私有地の問題だ。富士山8合目以上は富士山本宮浅間大社の私有地となっており、道路法の適用対象外とされる。そのため、行政が一体的かつ強制力を持って立入を禁止することは、現行制度のもとでは容易ではない。今回の事故の3日前には、テレビ朝日「サタデーステーション」が「閉山中の富士山で相次ぐ救助要請」を特集したばかりだったが、報道による抑止が届かない構造的な問題があると指摘されている。

■ 「受益者負担」をめぐる論争――救助費用は誰が払うべきか

今回の事故を受け、静岡県の鈴木康友知事は3月10日の定例記者会見で「危険だから閉山している。そこをしっかり認識してもらい、無理な登山をしないよう注意喚起していきたい」と述べた上で、「無謀な登山をして遭難したケースは一定の受益者負担が必要」との認識を示した。

救助有料化の是非をめぐっては、以前から活発な議論が続いている。

【有料化賛成派の主な主張】

「危険を承知で登っての遭難は自己責任。救助費用を遭難者負担にすべき」(富士宮市・須藤秀忠市長)

「まるでタクシーを呼ぶかのようにスマートフォンで気軽に救助を要請する風潮が目立つ。有料化で危険性の自覚と覚悟を促すべき」(山梨県富士吉田市長・堀内茂氏)

救助隊員が夜通しで命がけの活動を行ったにもかかわらず、その費用がすべて自治体(税金)で賄われる現状への疑問は大きい。

【有料化慎重派・反対派の主な主張】

山岳救助の有料化には、憲法上の基本的人権(生存権)との関係から法的課題があるとされ、静岡県知事自身も有料化には法改正が必要と指摘している。

「費用を恐れて救助要請をためらい、かえって犠牲者が増える」という懸念も示されている。

埼玉県は2018年度から山岳救助ヘリの有料化(5分あたり8,000円)を実施している先例があるが、富士山を抱える静岡・山梨両県では、現時点で具体的な方向性は決まっていない。

■ 世界文化遺産・富士山が問われるもの

警察庁の統計によると、冬季富士山での遭難事故件数・遭難者数は2018年の統計開始以降、過去最多水準で推移しているとされる。今回の閉山期(2025年9月11日〜事故発生時)だけでも、富士山での事故はすでに4件を数え、うち1人が死亡している。

「閉山中の富士山で登山をすることの意味を、正しく世界に発信できているか」――今回の事故はこの問いを改めて突きつけている。SNS上では「富士山を閉山中に登る情報」が複数言語で拡散されているとも報告されており、国際的な情報発信の在り方も課題となっている。

世界文化遺産でもある富士山を、訪れる人々にとっても地域住民にとっても安全な場所として守るためには、法整備・罰則の強化、多言語による危険性の周知徹底、救助費用の在り方についての制度的な議論を、より実効性ある形で前進させることが求められている。

(本記事は2026311日時点の報道をもとに作成。被害者の容体・捜査状況は今後変わる可能性があります。)


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