「紀州のドン・ファン」元妻に二審も無罪判決 大阪高裁が検察側の控訴を棄却
2026年3月23日、大阪高等裁判所は「紀州のドン・ファン」と呼ばれた資産家・野崎幸助さんの死亡をめぐる裁判で、殺人などの罪に問われた元妻・須藤早貴被告(30)に対し、一審に続いて無罪判決を言い渡した。検察側の控訴は棄却された。
事件の概要
- 2018年5月24日:和歌山県田辺市の自宅で、資産家・野崎幸助さん(当時77)が急性覚醒剤中毒により死亡
- 2021年5月:元妻・須藤早貴被告が、何らかの方法で致死量の覚醒剤を経口摂取させたとして殺人罪および覚醒剤取締法違反の罪で起訴
- 2024年12月:一審・和歌山地裁(裁判員裁判)が無罪判決を言い渡す。検察側は即日控訴
- 2026年3月23日:二審・大阪高裁が控訴を棄却し、無罪が確定(検察が上告しなければ)
野崎さんは生前、若い女性との交際を好む豪快な生き方から「紀州のドン・ファン」と呼ばれていた。
一審・二審の判断のポイント
一審(和歌山地裁・2024年12月)
- 「須藤被告が覚醒剤を摂取させて殺害したのではないかと疑わせる事情はあるが、殺害したと推認するには足りない」と判断
- 野崎さんが自ら覚醒剤を使用し、誤って致死量を摂取した可能性を否定できないとして無罪
二審(大阪高裁・2026年3月23日)
- 村越一浩裁判長は「被告が野崎さんに不信感や違和感を持たれることなく、致死量を超える覚醒剤を摂取させることは容易ではない」と指摘
- 「被告が犯人であると証明できない」として一審判決を支持
- 検察側が請求した新たな証人尋問・証拠調べは認められず、即日結審していた
検察側の主張と証拠
検察側は直接証拠がない中で、以下の**状況証拠(間接証拠)**を積み重ねて有罪を主張していた。
- 死亡前に須藤被告が覚醒剤の密売人と接触し、致死量を超える覚醒剤を注文したとされる点
- 「完全犯罪」「老人 死亡」「覚醒剤 過剰摂取」などのネット検索履歴が確認された点
- 野崎さんが覚醒剤を摂取した可能性がある時間帯に、須藤被告が少なくとも8回、1階から2階に上がった点
- 被告が野崎さんの死亡により多額の遺産を相続できるという動機の存在
控訴審で検察側は「一審は証拠を個別にしか評価しておらず、総合的な判断が不十分」と主張した。
弁護側の主張と裁判所の判断
弁護側の主張
- 「直接証拠が存在しない」という点を一貫して強調
- 密売人から受け取ったとされるものが、本物の覚醒剤ではなく氷砂糖だった可能性がある
- 検索履歴は「殺害を計画していなければ検索しないようなものとはいえない」
- 1階・2階の往復も「被告の私物が2階にあり、死亡と無関係な理由の可能性がある」
- 控訴審は裁判員裁判の判断を尊重するべきと主張
裁判所の立場
刑事裁判では「疑わしきは罰せず(無罪推定の原則)」が適用される。有罪とするためには「合理的な疑いを超える証明」が必要とされており、今回は状況証拠の積み重ねだけではその水準に達しないと判断された。
事件の争点まとめ
| 争点 | 検察側の主張 | 弁護側・裁判所の判断 |
|---|---|---|
| 覚醒剤の入手 | 密売人から入手し摂取させた | 受け取ったものが本物か不明 |
| 検索履歴 | 殺害を計画していた証拠 | 殺害目的でなくても検索はありうる |
| 動機 | 遺産相続のため | 動機があっても殺害の証明にならない |
| 当日の行動 | 2階に何度も上がり機会があった | 別の理由での往来の可能性を否定できない |
| 総合評価 | 偶然の一致ではあり得ない | 合理的な疑いが残る |
今後の焦点
- 検察側が上告するかどうかが注目される。上告する場合は最高裁での審理となるが、事実認定の問題については上告審での覆しは難しいとされている
- 一審・二審ともに「疑わしい事情はある」と認めつつも無罪と判断した点で、「真相は解明されなかった」という受け止め方もある
- 野崎さんの遺産(6億円超ともいわれる)の行方についても引き続き注目が集まっている
用語解説
- 急性覚醒剤中毒:覚醒剤を大量に摂取することで、心臓や神経系に重大なダメージを与え死亡に至る状態
- 状況証拠(間接証拠):犯行を直接証明するものではなく、状況から犯行を推測させる証拠のこと
- 裁判員裁判:一般市民(裁判員)が職業裁判官とともに審理・判断に参加する裁判制度。重大事件に適用される
- 控訴:一審判決に不服がある場合、上級裁判所に再審理を求めること
- 無罪推定の原則:刑事裁判では、有罪が証明されるまで被告人は無罪として扱われるという原則
参考・情報源
「紀州のドン・ファン 二審判決」「須藤早貴 大阪高裁 2026」などで検索
筆者のコメント

一審で無罪、二審でも無罪――。裁判所が2度にわたって「証明できない」と判断したわけですが、同時に「疑わしい事情はある」とも認めているんですよね。つまり「シロとは言い切れないけど、クロとも言い切れない」という、もどかしい結論です。
検察側が積み上げた状況証拠は、傍から見るとかなりの量なんですが、刑事裁判では「合理的な疑いを超える証明」が求められます。これは非常に高いハードル。「怪しい」だけでは有罪にできない、というのが日本の刑事司法の原則です。
ただ、野崎さんがなぜ死亡したのか、真相が明らかになったわけではありません。「無罪判決=事件は解決した」ではなく、「証明できなかった」という結果である点は、頭に置いておく必要がありそうです。
今後は検察が上告するかどうかが焦点になりますが、事実認定の問題は最高裁では覆りにくいとも言われており、このまま無罪確定となる可能性も十分にあります。



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