宇連ダム「貯水率ゼロ」で底水くみ上げ開始――ダムの仕組みと水不足の深刻度を読み解く
この記事ではニュースの概要と、そもそもダムがどう機能しているかを解説する。
宇連ダムで何が起きているのか
2026年3月17日午後3時半、愛知県新城市にある宇連ダムの貯水率がゼロになったことが、管理する独立行政法人・水資源機構によって発表された。
宇連ダムの基本情報
人造湖の名称は「鳳来湖」。
機能している。
渇水の経緯
今回の渇水は、2025年7月頃から続く記録的な少雨が主な原因とされている。昨年10月以降の降雨量が平年を大きく下回り続け、2026年1月には愛知県が渇水対策本部を設置した。
- 2025年8月29日 : 豊川用水節水対策協議会が第1回節水対策を開始(農業・水道・工業 各5%削減)
- 2026年2月10日 : 第5回節水対策(水道20%・農業40%・工業40%)へ強化
- 2026年3月12日 : 貯水率が1%以下に低下
- 2026年3月17日午前9時 : 第6回節水対策発動(水道25%・農業45%・工業45%)。東三河5市で「夜間ノータッチ運動(午後11時〜午前5時は使用自粛)」を開始
- 2026年3月17日午前11時前 : 底水のくみ上げポンプ稼働開始
- 2026年3月17日午後3時半 : 貯水率0%を公式発表
底水くみ上げの実態
- 水中ポンプ10台・ホース・発電機を堤体から約50m下の地点に設置して対応
- 1日最大約2万6,000トンをくみ上げ可能
- 底水の残量は約28万トン(まとまった雨がなければ約10日分)と推計されている
- 底水は砂や泥が混じりやすく、取水・活用には注意が必要とされている
そもそも「貯水率0%」はどういう意味か
「貯水率0%」と聞くと「ダムが完全に空になった」と思いがちだが、実際の意味は少し異なる。
つまり「貯水率0%」とは「水道や農業に使える水(利水容量分)を使い果たし、水位が最低水位まで下がった状態」を指す。ダムの底に完全に水がなくなったわけではない。
ダムの基本構造と「容量の分け方」
ダムの「器(総容量)」は一定だが、その中身は用途によって複数のゾーンに分けられている。
- 洪水調節容量 : 大雨が来たときに一時的に水を受け止めるための「空きスペース」。洪水期は大きく確保される
- 利水容量 : 水道・農業・工業・発電などに使う水を貯めるためのスペース。「貯水率」の計算に使われる分母
- 堆砂容量 : 長年かけてたまる土砂を想定して確保されたスペース。通常は使用しないが、水が残っている場合は緊急時に活用される
- 死水容量 : 底に沈積した沈殿物など、使用できない領域
日本の主要ダム(総貯水容量ランキング)
| # | ダム名 | 所在地 | 総貯水容量 | 主な目的 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 徳山ダム | 岐阜県(木曽川水系揖斐川) | 660,000千m³ | 洪水調節・水道・工業・発電 |
| 2 | 奥只見ダム | 新潟県(只見川) | 601,000千m³ | 発電 |
| 3 | 田子倉ダム | 福島県(只見川) | 494,000千m³ | 発電 |
| 4 | 夕張シューパロダム | 北海道(石狩川水系夕張川) | 427,000千m³ | 洪水調節・農業・水道・発電 |
| 5 | 御母衣ダム | 岐阜県(庄川) | 370,000千m³ | 発電 |
| 6 | 九頭竜ダム | 福井県(九頭竜川) | 353,000千m³ | 洪水調節・発電 |
| 7 | 佐久間ダム | 静岡県(天竜川) | 343,000千m³ | 洪水調節・発電 |
| 8 | 池原ダム | 奈良県(北山川) | 338,373千m³ | 発電 |
| 9 | 早明浦ダム | 高知県(吉野川) | 316,000千m³ | 洪水調節・農業・水道・工業・発電 |
| 10 | 玉川ダム | 秋田県(雄物川水系玉川) | 254,000千m³ | 洪水調節・農業・水道・工業・発電 |
| 出典:国土交通省ダム便覧。目的略記:F=洪水調節 N=河川維持 A=かんがい W=上水道 I=工業用水 P=発電 | ||||
なぜ「貯水率」は1日で急変するのか
ダムの運用で少し驚かれるポイントが、貯水率が「計算の分母の切り替え」によって1日で大幅に変化する仕組みだ。
夏と冬で変わる「器の大きさ」
ダムは季節によって容量の使い方(配分)を変えている。台風や集中豪雨のリスクが高い夏は「洪水調節」を優先し、水を受け止める空きスペースを大きく取る。一方で冬から春は大雨のリスクが下がるため、その空きスペースを「利水容量」に転換して水を蓄える。
冬・春(非洪水期)は利水容量を最大化して水を蓄える。
高山ダムで見る「1日で貯水率が激変」する例
淀川水系の高山ダム(奈良県・京都府)は、この変化が特に大きいことで知られている。
たとえばダムに1,200万m³の水がたまっている場合、日付が「10月15日」から「10月16日」に変わった瞬間、貯水率の計算は次のように変わる。
貯まっている水の量は同じなのに、計算上の貯水率は一晩で「約87%→約24%」へと急落する。逆に6月16日(洪水期開始日)には分母が小さくなるため、同じ水量でも貯水率が跳ね上がることになる。
淀川水系の主要ダム・利水容量の比較
| ダム名 | 洪水期(夏)利水容量 | 非洪水期(冬春)利水容量 | 容量の差 | 変化倍率 |
|---|---|---|---|---|
| 高山ダム | 1,380万m³ | 4,920万m³ | 3,540万m³ | 約3.5倍 |
| 日吉ダム | 1,600万m³ | 3,600万m³ | 2,000万m³ | 約2.2倍 |
| 一庫ダム | 1,330万m³ | 2,680万m³ | 1,350万m³ | 約2.0倍 |
| 比奈知ダム | 940万m³ | 1,530万m³ | 590万m³ | 約1.6倍 |
| 室生ダム | 815万m³ | 1,330万m³ | 515万m³ | 約1.6倍 |
| 青蓮寺ダム | 1,540万m³ | 1,910万m³ | 370万m³ | 約1.2倍 |
| 布目ダム | 1,000万m³ | 1,270万m³ | 270万m³ | 約1.3倍 |
| 出典:水資源機構 淀川本部データ。室生ダム・布目ダムは洪水期内でさらに細分化される場合がある。 | ||||
冬に水を多く貯める理由
「冬に利水容量を増やす」のは単純なルール変更ではなく、年間を通じた水資源管理の観点から合理性があるとされている。
- 農業・水道・工業用水の安定供給 : 雨の少ない冬〜春先にかけて、水道や農業(田植えシーズンなど)への安定的な供給を確保するための備蓄
- 渇水リスクの軽減 : 十分に貯めておくことで、貯水率が0%まで低下する事態を回避するための「保険」的な役割を果たす
- 水力発電の安定化 : 水位を高く保つことで発電量が増え、国産クリーンエネルギーの供給安定に寄与する
- 融雪水の確保(北日本・北陸) : 温暖化の影響で融雪時期が3月に前倒しされる傾向があり、春先に容量を確保して雪解け水を逃さず蓄えることが重要になっている
気候変動とダム運用への影響
近年の気候変動はダム運用の前提となる「流入量・流況パターン」に変化をもたらしているとされる。
洪水リスクの増大
- 1時間に50mm以上の強雨の発生回数は、1976〜1985年の平均と比べ、2015〜2024年の直近10年間で約1.5倍に増加したとされている
- 北海道・北陸・四国・九州などでは、近年のダムへの年間最大流入量が昭和末期比で1.2〜1.5倍に増大している傾向が確認されているという
渇水リスクと地域差
- 東日本ではダムへの流入量が増加傾向にある一方、西日本(特に中国地方)では渇水流量が減少する傾向が指摘されている
- 四国・九州では年間雨量が増加傾向にあるにもかかわらず、ダムへの年間流入量は横ばいか流出率が低下しているケースが報告されている。「激しい雨が増える一方で、雨が降らない期間も長くなる」という降雨の極端化が原因の可能性があるとされる
融雪パターンの変化
- 全国的に3月の流入量が増大し、5月の流入量が減少する傾向が見られ、従来の運用スケジュールの見直しが必要になっているという指摘がある
- 北海道・北陸では雪ではなく雨が増え、融雪の早期化によって冬から春の累計流入量が変化しているとされる
- 宇連ダムの貯水率0%は「ダムが空」を意味するのではなく、「利水目的の水が尽きた」状態を指す。2025年7月以降の記録的少雨が長期化し、1968年通水以来初の底水くみ上げが行われている
- 「貯水率」は利水容量(分母)が季節ごとに変わる仕組みのため、1日で数値が大幅に変化することがある。ニュースの数字を見る際はこの点を念頭に置くと理解しやすい
- ダムは「洪水を防ぐ」と「水を蓄える」という相反する2つの目的を、季節によって切り替えながら両立している
- 気候変動による降雨パターンの変化(洪水の激甚化と渇水の深刻化の同時進行)は、既存のダム運用ルールの前提を変えつつあるという指摘がある




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